2010-04-05

知性化宇宙シリーズ ([著]デイヴィッド・ブリン, [訳]酒井昭伸, ハヤカワ文庫SF)

多種多様なエイリアンたちに地球人(ヒト、チンプ、そしてフィン)がいじめられる、っていうような物語群。環境問題を SF に投射したものと読んでも良いし、「知性って何?」という問いかけとして読むのもアリ。一番良いのは、素直に良質のスペースオペラとして読むことだろう。今から、全部を読むのはかなり気合いが必要だけど、読んでいて楽しいことは間違いないし、全体を通して雰囲気は明るく(主人公たちは苦境の連続なんだけど)、どの作品も読後感は爽やかだ。分量を別にすれば SF 入門としても良作。

物語の中での時代は、作品の出版順になっていて、「サンダイバー」に始まり、「スターダイド・ライジング」、「知性化戦争」ときて、「知性化の嵐」三部作が続く。

どの作品もおもしろいけど、あえてひとつだけを選ぶとすれば「知性化戦争」だ。フィンは出てこないけど、その分チンプがたっぷり出てくるし、オマケもある。「スタータイド・ライジング」を選ぶと続きが気になるし、「知性化の嵐」三部作を楽しむには「スター」の方も読む必要がある。分量で言うなら「サンダイバー」ぐらいがちょうど良いんだけどね。これはシリーズ全体のプロローグのような作品。

知性化戦争〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)
デイヴィッド・ブリン, 酒井 昭伸
早川書房 ( 1990-06 )
ISBN: 9784150108724
おすすめ度:アマゾンおすすめ度
知性化戦争〈下〉 (ハヤカワ文庫SF)
デイヴィッド・ブリン, 酒井 昭伸
早川書房 ( 1990-06 )
ISBN: 9784150108731
おすすめ度:アマゾンおすすめ度

雰囲気の明るさは、地球人(アースリング)として登場するチンプやフィンによるものだろう。それぞれチンパンジーとイルカを、ヒトが知性化した種属で、チンプはユーモラス(というより滑稽というべきかも)で、フィンは何ともほほえましい(かわいらしい)。異星人たちが、異形かつ酷薄に描かれているから(地球人に対立する連中はとくに)、余計にそう思える。

もうひとつ、この作品群を特徴づけているものがある。それが<銀河ライブラリー>の存在。5つの銀河系に住む知性体の 10 億年に及ぶ知的活動の集積だ。すべての答えはそこにある、というのが銀河知性全体の認識(ただし、地球人はそう思っていない)。そのイメージとして、現在の Google (とインターネット)を思い浮かべると良い。