2010-08-10

フローなメモならスティッキーズ

メモにはフローとストックの 2 種類がある。

たとえば、新しい iMac の製品発表を見て、あれこれ悩んだ末に買う決心をして、いざ Apple Store でポチろうとしたら出かける時間になり、忘れては困るので手元のポストイット®に「新しい iMac を買うこと。」と書き込んでディスプレイの端に貼りつけたとする。このメモはフローだ。iMac を買ってしまえばメモは不要になる。

ストックがどんなメモなのかについては別の機会に考えるとして、ここではフロータイプのメモを扱うツールに話をしぼる。

アナログの道具を使ってこのタイプのメモを書くならポスト・イット®に勝るものはない。貼りつけられるから風で飛んでしまうことはないし、どこかに紛れ込むこともない。目立つところに貼りつければ忘れるはずもない(たぶん)。そして用が済めば、はがして丸めて捨ててしまえば良い。

この便利な発明をそのままデジタルの世界に写し取ったかのようなツールがある。Mac OS X の標準アプリの一つ、「スティッキーズ.app」だ。

アプリを起動して、メモを書いて、デスクトップに置いておく。不要になったら、メモごとのウィンドウを閉じるだけ。まさにポスト・イット®のユーザ体験だ。何よりうれしいのは「保存」や「開く」が不要なこと。アプリを終了すればデスクトップ上のメモはすべて消えるが、もう一度起動すれば終了したときのメモがそのままの配置で現れる。また、「保存」がいらないということは、メモデータを保持しているファイルなんかもユーザは意識する必要がない。デスクトップに並んでいるもの、目に見えるものがすべて。こんなに「直感的」なアプリは、そうそうない。

ただ、少し問題がある。「スティッキーズ.app」の使い易さと役に立ちっぷりを実感するには、大きな画面が必要なのだ。MacBook のような小さな画面では黄色いメモを置くための領域がない。画面はブラウザやら何やらのウィンドウですでに埋め尽くされているはず。たとえ 1 つのメモであっても、それを置く場所を見つけることが難しい。

一方、大きな画面さえ用意できれば、メモを取るツールとしてこれほど優れているものは他にない。思いついたときにすぐ書き取ることができ、デスクトップの片隅に置いておけば、書いた内容も、書いたこと自体も忘れる心配がない。

大きなディスプレイが使えるなら、ブレストだってできる。ホワイトボードとポスト・イット®を使ってやることが Mac のディスプレイの中でできる。というのも、このアプリでは、ディスプレイ上でメモに物理的な配置関係を与えることができるから。

このように「スティッキーズ.app」は、アナログ世界の便利なツールを、デジタル世界に、ユーザ体験ごと忠実に再現したものだと言える。ポスト・イット®を使ったことがある人なら、このアプリの使い方も使い心地も想像できる。そして、まさに想像どおりに使える。「直感的なツール」の見本だと言っても良い。

一方で、デジタルツールとしての良さはむしろ殺されてしまっている。アプリとして作ることのできるメモの数に制限はないようだが、ディスプレイ上に並べることが前提だからディスプレイのサイズに制約される。物理的な配置に意味を持たせられるのは良いが、配置の移動が手作業になる。などなど。

そういう意味で、「スティッキーズ.app」はデジタルな世界に作られたアナログツールなのだ。

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