2010-09-04

隠れたウィンドウは見えない、見えないウィンドウは存在しないも同然 #2

前回に引き続き、ウィンドウにおけるアプリケーションウィンドウの配置問題について。今回は、ユーザが行う工夫について考える。

前回の最後に書いたように、ウィンドウを重ならないようにするためにユーザが取り得る工夫は、おおよそ次の 3 つになる。

より大きな画面を手に入れる

たとえば、新しく iMac の購入を検討しているとする。現行の iMac (Mid 2010) には 21.5 インチと 27 インチ の 2 つのモデルがある。予算が許すなら 27 インチの方を手に入れる。画素数でくらべて約 1.8 倍になる。あるいは、置き場所に余裕があるなら、iMac は小さいモデルを選択し、その代わり差額(約 5 万円)で 2 台目のディスプレイを購入するという手もある。

すでにパソコンがある場合はどうするか? 2 台目のディスプレイをつなげることを検討しよう。すべての機種、モデルでそれができるわけではないが、もし可能なら(そして予算と置き場所が許せば)やってみるべきだ。画面の広さが 2 倍(以上)になる。

古くても良いから単体のディスプレイは捨てずに取っておき、新しいパソコン (iMac など) につなげてみると良い。CRT の頃、ディスプレイはとにかく場所を取ったものだが、液晶ディスプレイが普及してからは、机の上に 2 台のディスプレイを並べることも手軽にできるようになった。

物理的に画面を大きくできない場合は「仮想デスクトップ」を利用するという方法もある。Mac なら標準で利用できる機能だ。ただし、「仮想デスクトップ」は一度に見える領域が増えるわけではない。この機能は、むしろユーザが作業コンテキストを明確にするためにあるものだ。

作業コンテキストとは関連のある複数の作業から構成される作業場(ワークスペース)のようなもの。たとえば、twitter クライアントでタイムラインを眺めている時、誰かのツィートにある URL を開きたくなる。そのときブラウザはすぐそばにあるべきだろう。ブラウザでウェブを見ているときにツィートしたくなったなら、twitter クライアントがブラウザの横にあるとウレシイ。この 2 つがそばにあることで「情報探索とコミュニケーション」のための作業場が生まれる。

わたしはブログの記事を Emacs で書いている。自分が書いた記事もふくめて、あちこちのウェブページを参照することになるから、Emacs のすぐ右横には Safari が開いている。左横にはターミナルのウィンドウが 2 つ。記事のネタになるプログラムを走らせたり、man を参照したり(ウェブで見るより手軽)と、これも良く使う。Mail.app にはメモが置いてあるから、これも近くに開いておく。これらがわたしにとっての「ブログを書く」という作業場を構成している。

人は作業に集中すると、他のことが気にならなくなる。そして気にならない情報は見えていなくても良いのだ。むしろ、見えていると気が散って作業の邪魔になる。だから、複数のデスクトップを切り替えられる「仮想デスクトップ」は作業コンテキストの構築に適している。

アプリ内で余分な情報は表示しないようにする

たとえば、iTunes。曲名以外にもアーティスト名、アルバム名、ジャンルやレート、などなど。デフォルトで表示されている情報のうち、自分が気にしないものはすべて外してしまう。見えない情報は存在しないも同然だが、見ない情報が見えていても邪魔なだけだ。さっさと隠して、その分ウィンドウを小さくした方が良い。

ちなみに、iTunes で表示項目を設定するには、メニューから「表示」>「表示オプション...」を選ぶ。

他のアプリでも、表示項目を選ぶオプションがあるものは積極的に項目を隠すようにする。

ツールバーだってカスタマイズして、使わないボタンを外し、良く使うボタンを追加し、アイコンの下のテキストは表示しないように変える。良く使うボタンならすぐに意味は覚えるからテキストは不要だ。わからなくなったとしても、たいていツールチップが表示できるから大丈夫。

その気になって探せば、隠してしまえる情報は結構見つかるものだ。

ウィンドウを重ならないように並べる

ほとんどのアプリは自分のウィンドウのサイズと位置を覚えてくれる。一度、重ならないように配置してやれば、次に起動したときにはその場所でウィンドウが開く。

とはいえ、同じアプリで複数のウィンドウを開くこともあるし、そうなるとせっかく覚えさせたサイズや位置を上書きされてしまう。イラっとする瞬間だ。もう、いっそのこと AppleScript でコントロールしてしてやる、という気になる。実際、ウチでは Safari に iTunes、tweetie、Emacs、ターミナル(ウィンドウ 2 つ)の起動(サイズと位置の調整をふくむ)を Automator でアプリ化し、ログイン項目に入れてある。まあ、アプリによっては AppleScript での制御(サイズと位置調整)を受け付けないものもあるけどね。

マルチウィンドウシステムは必要か?

大きな画面が使えるならウィンドウはタイル式に並べる方が良い。マルチウィンドウシステムは大きな画面でタイル式に使ってこそ意味があると言っても良いぐらいだ。

では、小さな画面しか使えないときはどうすれば良い? ノート型のパソコンでは画面サイズは大型のものでも 17 インチ程度。主流は 15 インチぐらいだろう。ブラウザと twitter クライアントを並べたら、もう画面は一杯になる。メールクライアントならそれだけで画面を占有する。

自宅やオフィスなら 2 台目のディスプレイにつなぐこともできるだろう。省サイズデスクトップとしてのノート型なら(ほとんどいつも固定位置にあるだろうから)それも良い(省サイズの意味が薄れるが)。けれど、持ち歩くタイプなら?

小さな画面の機器を使うときには発想の転換が必要なのだ。ノート型パソコンよりももっと画面の小さい iPad や iPhone のようなデバイスを思い浮かべてほしい。そこにマルチウィンドウはない。iOS4 が登場するまではアプリを(終了させずに)切り替えることもできなかった。それでも、iPhone や iPad を使って作業をこなすことはできる。もちろん、iPhone/iPad に向かない作業もある。けれど、それを言えばノート型パソコンだって決して汎用機ではないのだ。デスクトップ型で快適にできることのすべてが、そのままのユーザ体験で実現できるはずがない。

iOS4 が見せたように、(GUI ベースの機器にとっても)マルチウィンドウは、アプリ(タスク)の切り替えおよびマルチタスクにとって必須の機構ではない。それなら何も小さな画面で窮屈に複数のウィンドウを開く必要はないのだ。どうせ隠れて見えないんだから。画面の小さな機器(ノート型パソコンもふくむ)にデスクトップと同じ OS を載せることは、ユーザ体験上好ましくないことなのだ。

iPhone/iPad が成功したからと言って、すべてのマルチウィンドウシステムが不要だとは思わない。ただ、それはどんな画面サイズにも適しているわけではない。

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